【対談】ミラノ東京 ひきこもりダイアローグ 
第6回「インターネット依存」


写真:ミラノ・ヴェネト広場(pixabay)/東京・国際フォーラム(街画ガイド) 合成:ぼそっと池井多

 

<対談者プロフィール>

マルコ・クレパルディ (Marco Crepaldi)
イタリア・ミラノに住む若い社会心理学者。イタリアにおけるひきこもりの増加に対応するべく、イタリア版「ひきこもり新聞」ともいうべきウェブサイト「Hikikomori Italia」を立ち上げ、イタリア国内約170のひきこもり家族の連絡会を主宰している。本紙「ひきこもりは何であり、何ではないか」(日本語版)も参照のこと。

ぼそっと池井多 (Vosot Ikeida)
日本・東京に住む中高年のひきこもり当事者。ひきこもり歴は断続的に30年以上。詳しい履歴については本紙「ひきこもり放浪記」を参照のこと。問題当事者の生の声を発信する「ぼそっとプロジェクト(VOSOT)」主宰。
なお、この対談における発言は、あくまでもぼそっと池井多個人のものであり、本紙「ひきこもり新聞」を代表する意見ではない。

ミラノ東京ひきこもりダイアローグ 第5回からのつづき…

マルコ・クレパルディ
残念ながら、(2017年6月)現在のところ、イタリアのメディアは「ひきこもり」と「インターネット依存」を混同しているのです。だから、パソコンの電源コードを引っこ抜いてしまえば、ひきこもりは部屋から出てくるものだと考えている人が非常にたくさんいます。
そういうことじゃないと思うんですけど。
日本でも、そうですか。

ぼそっと池井多
日本ではさすがに「ひきこもり」と「インターネット依存」をいっしょくたにするメディアはないと思いますが、しかしたくさんのメディアがひきこもりに関して、先入観にもとづいたイメージを持っています。

たとえば、「ひきこもりというのは、両親が長年苦労して建ててくれた一戸建ての二階のいちばん奥の部屋にとじこもっている20代から30代ぐらいの男性のことで、部屋の中では夜も昼もアニメを観て、インターネット観て、オンラインゲームやって、お母さんが部屋の入口まで食事を運んできている」というようなイメージです。

安っぽいテレビドラマに描かれるひきこもりというのは、たいていそんなものです。

マルコ・クレパルディ
なぜ、そのような先入観にもとづいたイメージが、ひきこもりに与えられるようになったのでしょうか。

ぼそっと池井多
たぶん、最初に社会の表面に引きずり出されてきたひきこもりの人が、そういう風だったんじゃないですかね。ちょうど2000年ごろのことですか。それで皆が「ああいうのがひきこもりっていうんだ」と思ってしまったのですよ。

ところが、全然そうじゃないんですよね。
たとえば、私自身がひきこもりを始めたのは、両親の家を出て、生活を自立させてからしばらく経ってからのことでした。私がひきこもったのは両親の家の部屋ではなく、大学の寮の部屋だったわけです。

マルコ・クレパルディ

あなたがひきこもりを始めた当時は、まだインターネットなんて無かったでしょう?

ぼそっと池井多
ありませんでした。
だから私は、ひきこもりとインターネット依存が別物であることを証言する生き証人ですね。

マルコ・クレパルディ
ひきこもりとインターネットには高い親和性があるというのが本当かもしれませんが、以前、記事(「ひきこもりは何であり、何ではないか」)に書かせていただいたように、その理由を私は、ひきこもりが外の世界と交流したいというニーズの結果としてインターネットを多用することになるからだ、と考えているのです。

ぼそっと池井多
それは正しいでしょうね。あと、世代的な特徴もありますよ。若い人たちは、ひきこもりであろうとなかろうと、インターネットが生活必需品として、50代の私などから比べると、もっともっと必要となっていますからね。

じっさい、私はあるひきこもり女性からこのような言葉を聞きました。
「私はまったくインターネットが好きではありません。なぜならば、それぞれのウェブページに、社会で活躍している人々の姿を見てしまうから。それが、動けないでいる私を責めているように感じるのです。」
この言葉は、インターネット依存がひきこもりを作っているのではない、一つの証であることでしょう。

今やあなたは、こうして日本の私たちとひきこもりに関する対話のルートを持っておられるわけですが、フランスとかスペインとか、もっと他の国のひきこもり関係のネットワークとは連絡しあったりしてますか。

マルコ・クレパルディ
残念ながら、それがないのですよ。しかし、私のホームページへの閲覧記録から、他の国々、とくにスペインからのアクセスが多いことはわかっています。

ぼそっと池井多
日本の、ある専門家がこう予想しているようです。

「ヨーロッパでは、南へ行くほどひきこもりは多いはずだ。なぜならば、母と子の心理的な距離が南ほど近いからだ。北ヨーロッパへ行くと、子どもの自己は早い時期に確立されるので、成人後のひきこもりも少ないはずだ」

ちゃんとした統計の結果がない現在のところ、これは一つの仮説にすぎないわけですが、あなたはこの仮説をどう思いますか。

マルコ・クレパルディ
賛成しますね。スペインとイタリアは、ヨーロッパの中でも、最もひきこもりの多い国々だと思います。それは、あなたがおっしゃった理由からです。
しかし、何もヨーロッパで、スペインとイタリアだけにひきこもりがいる、などと言うつもりはありませんよ。もっと他の国にもいるでしょう。

私の意見では、西洋では南ヨーロッパと北アメリカが、最もひきこもりの多い地域なのではないでしょうか。

ミラノ東京 ひきこもりダイアローグ 第7回へつづく

「ミラノ東京 ひきこもりダイヤローグ 第6回 英語版」はこちら

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