【対談】ミラノ東京 ひきこもりダイアローグ 第5回「暴力的支援団体」


写真:ミラノ・ナヴァーリ(pixabay)/東京・中目黒(photoAC)合成:ぼそっと池井多

 

<対談者プロフィール>

マルコ・クレパルディ (Marco Crepaldi)
イタリア・ミラノに住む若い社会心理学者。イタリアにおけるひきこもりの増加に対応するべく、イタリア版「ひきこもり新聞」ともいうべきウェブサイト「Hikikomori Italia」を立ち上げ、イタリア国内約170のひきこもり家族の連絡会を主宰している。本紙「ひきこもりは何であり、何ではないか」(日本語版)も参照のこと。

ぼそっと池井多 (Vosot Ikeida)
日本・東京に住む中高年のひきこもり当事者。ひきこもり歴は断続的に30年以上。詳しい履歴については本紙「ひきこもり放浪記」を参照のこと。なお、この対談における発言は、あくまでもぼそっと池井多個人のものであり、本紙「ひきこもり新聞」を代表する意見ではない。

ミラノ東京ひきこもりダイアローグ 第4回」からのつづき・・・

 

ぼそっと池井多
「もし、ひきこもりがひきこもり状態を脱したいと望んでいるのなら、他人がそれを助け出してあげようとすることはよい」
ということで、私たちは合意しましたね。
けれども問題は、ひきこもり自身の選択によらないで、それを「助け出してあげようとする」人々がいる、ということなのです。
それが、よく日本語で「引き出し屋」などと呼ばれる、ひきこもり支援のとんでもないタイプです。

マルコ・クレパルディ
「引き出し屋」とは、どういう意味ですか。

ぼそっと池井多
日本で発行されている英字新聞などでは「Drawer」(註)などと訳されていますが、彼らは自分たちをひきこもりの支援団体だと名乗っています。

実際には、彼らはしたたかなプロ集団です。ひきこもりを抱えた両親から一万ユーロくらいの大金を受け取り、それと引き換えに、ひきこもりが部屋から出てくるように説得する。出てこなければ、ドアを壊してひきこもりを引っぱり出す。用意してきた車に押しこんで、更生施設と呼んでいる牢屋のような場所へ連れ去るのです。そして、彼らの組織のために働く安価な労働力に仕立て上げていく。

彼らはひきこもりを引っぱり出すのに、いくつかの特殊な心理操作のコツを心得ています。しかし、そのコツを使ってうまく行かない場合は、暴力的にドアを壊して乱入し、それを支援と呼んでいることから、「引き出し屋」「暴力的支援団体」などと私たちは呼んでいます。

マルコ・クレパルディ
とんでもないことですよね、それって。

ぼそっと池井多

そうなんですよ。
彼らの更生施設なるものは、たいてい山の中とか、海外たとえばオーストラリアの砂漠のど真ん中とか、そこからひきこもりが簡単に逃げ出すことのできない場所にあったりします。更生施設が街の中にあることもありますが、捕らえられたひきこもりは一日中、監視されているので、逃げ出せないという点では同じです。

暴力的支援団体のトップは警察とつながっていることが多いので、たとえひきこもりが監禁先から逃げだすことに成功し、近くの警察署に駆け込んだとしても、また監禁先へ連れ戻されることがあります。つい先日も、実際にそういう事件がありました。(「引き出し業者被害 記者会見」[リンクhttp://www.hikikomori-news.com/?p=1711]参照)

もっと恐ろしいことは、こういう引き出し屋は社会のために良い仕事をしていると見なされ、政府高官によって華やかな表舞台のパーティーに招かれたりしているのです。彼らがやっていることは、ひきこもりの人権侵害以外の何物でもないというのに。

マルコ・クレパルディ
本当に恐ろしいことですね。私は同じような業者がイタリアに出てくることを許しませんよ。
長期的な視点に立てば、忍耐と理解だけがひきこもりを救う唯一の道である、と私はこれまでも言い続けてきました。

ぼそっと池井多
イタリアでは、ひきこもりの増加に対して、どのような対策や活動がおこなわれていますか。

マルコ・クレパルディ
何もおこわれていません。(2017年6月現在)
なぜならば、イタリアではひきこもりという現象について、ほとんど誰も知っている人がいないからです。だから、私はこのプロジェクトを始めたのです。多くの人々は、まだ「ひきこもり」と「インターネット依存」を混同しています。だから、後は推して知るべしといったところでしょう。

でも、きっとイタリアでは、ここ二、三年のうちに状況は大きく変わっていきますよ。ひきこもりの増加という現象はあまりにも大きいので、さすがに人々は無視できなくなってきているのです。

…「ミラノ東京 ひきこもりダイアローグ 第7回」へつづく

 

註:「引き出し屋」の翻訳について
英語で「Drawer」などと訳される「引き出し屋」は、この対談の時点ではイタリア語に対応する語彙がなかった。しかし、のちにマルコ・クレパルディと私が、
「引き出すってどういうこと」
「たとえば、洞窟のなかに何か良い物があって、それを外へ出したい。でも大きいから、なかなか出ない。そういう時イタリア人はどうするの」
などと問答しているうちに estrarre という動詞に行きつき、そこからイタリア語の「引き出し屋」 estrattori という新語が誕生した。

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