【完全版】思いを受け止める場を「ひきこもる女性たち」著者池上正樹氏インタビュー


%e6%b1%a0%e4%b8%8a%e6%ad%a3%e6%a8%b9%e3%82%a4%e3%83%b3%e3%82%bf%e3%83%93%e3%83%a5%e3%83%bcweb%e3%82%ab%e3%83%a9%e3%83%bc1

昨年、ひきこもりの女性は全体の約2割という統計が公表された。
しかし、そこには家事・手伝いや専業主婦は含まれていなかった。
一方で、ひきこもり女子会が国内各地で開催されるなど女性ならではの輪が広がっている。
それを受け「ひきこもる女性たち」の執筆者である池上正樹さんに詳しい話を伺った。

―なぜ「女性のひきこもり」に目を向けたのですか?

7年前から連載している、ダイヤモンド・オンラインの「ひきこもる大人たち」に寄せられてくるメールは元々、半々くらいの比率で女性がいました。そんなとき、女性のためのライタースクールの卒業生から「クラスには、ひきこもっていたような女性が何人もいた」という話を聞かされて、気づいたんです。
僕らが認識してきたデータは、ひきこもっている人たちの7割から8割が男性。このギャップは一体何なんだろうと思って、あらためて見ると、ひきこもり実態調査の定義で、女性に関しては、「自宅で家事・育児すると回答した者を除く」という形で数がはじかれていたのです。
家事手伝いも好き好んでやっている女性たちであれば問題はないけれど、そうでない人たちは、本当は「もっとやりたいことがあるんだ」とか「生きづらさを感じている」などと訴え、絶望や諦めしかない。
そもそも「家事手伝い」として家族から隠され、本人も自分が「ひきこもり状態」にあることを自覚できずにいる。そんな彼女たちの抱えるつらさや痛みが見えてなかった。

社会から想定外だった

ひきこもりの問題の多くは、家族の側からまず先に発信があって、本人が仕事しない、自立しない、というところから社会の側が知ることになるんですね。
しかし、その家族の側からの発信が女性のひきこもりに関してはあまりなかったんだと思います。家族は女性がずっと家にいても、家族以外との関係が無かったとしても、問題ではないという風にとらえられていた。
つまり、社会に想定されていない存在なんじゃないか。そういうことを誰も発言していなかったし、専門家も研究していなかった。そういう何もない所に、風穴を開けるつもりで問題提起をしたというのが、あえて本を出版することになったいきさつです。

―女性のひきこもりの主な原因は何ですか?

もともと、ひきこもる傾向のある人たちは基本的に、優しく、真面目で、感受性が敏感であるあまり、周囲の気持ちがわかり過ぎてしまうといった共通項があります。
そういう人たちほど傷つきやすく、相手を気遣い過ぎて疲れしてしまうことも多い。
そんな中で、ひきこもる傾向のある女性の特徴は、過去の受動的体験が起因していることが多い印象を受けます。親のころから受け継いできた素因があったり、パワハラやセクハラ、虐待といったトラウマ体験によって、これまでの心の傷が癒えなくてひきこもっていくこともあります。
実は、本には書けなかったことも、たくさんありました。あえて紹介するのを見送った事例もあります。
ひきこもる女性の背景には、性暴力を受けていることも少なくないのですが、そうした深刻な課題ほど、せっかく「伝えたい」という自らの意志により声を上げてもらっても、なかなか表に出すことの難しさも痛感しました。
子どもの頃、性暴力を受けながら、家族から「誰にも言ってはいけない」と言葉を封じ込められ、ひきこもってしまった事例もあります。恐怖の中で身体が硬直してしまって、被害に遭った自分自身が信じられなくなり、今でもそんな自分を責めるんです。
また、すでに専門家から、「摂食障害」といった診断名や、「リストカット」といった個人の病理性の問題として扱われ、「ひきこもる女性」という社会的課題としての認知には、必ずしもつながらなかったこともあります。

プロフィール 池上正樹(いけがみ・まさき)
62年生まれ。通信社勤務を経てフリーランスに転身。『心と街を追うジャーナリスト』として、ひきこもり問題について20年近く取材を続けている。そのほか、東日本大震災や痴漢冤罪問題関連の執筆活動も行ってきた。

こちらの記事は1月号「女性のひきこもり」に収録されています。紙面版の購入はこちらのショップひきこもり新聞からお願い致します。

次へ≫