40歳以上のひきこもりは61.3万人


(会見する北風参事官)

ついに、ひきこもりの全体像が浮かび上がってきた。

内閣府は29日、40歳~64歳までを対象とした「ひきこもり」の実態調査の結果を公表。40歳以上のひきこもりは推計61.3万人とした。15歳~39歳までの「ひきこもり」は2015年の調査で推計54.1万人だったことから、15歳~64歳までのひきこもりは、単純に合計すると、推計115.4万人となる。100万人以上のひきこもりの存在が、国の調査で明らかになったのは、今回が初めてだ。

内閣府は2010年と2015年に「ひきこもり」の実態調査を行っている。2010年の調査は69.6万人、2015年の調査では54.1万人と推計された。5年の間に15万人も減少したことについては、当時の石田徹参事官によって「政府の取り組みの効果」として説明された。

しかし、ひきこもりが減少したかのような説明には疑問が呈されていた。長年、ひきこもりを取材してきたジャーナリストの池上正樹氏は、2015年までの内閣府の調査は40歳以上や女性を排除しており、実態とかけ離れた“実態調査”だと指摘していた。当時の内閣府の調査は39歳までが対象だったため、人口の多い就職氷河期世代の一部は、2010年では調査対象だったものの、2015年では加齢により調査対象から抜け落ちていた。さらに、「専業主婦・主夫または家事手伝い」は調査の対象外になっていた。

 

調査の背景に8050問題と女性のひきこもり

ひきこもりについては、近年、8050問題と関連して言及されることが多くなってきた。80代の親と50代でひきこもる子は、もう珍しくない。ひきこもりは不登校のように若い世代に限定された事柄ではなく、どの世代にも起こりうる現象になっている。また、結婚後に主婦となり、家族以外との人間関係を失ったひきこもり女性の存在も知られてきた。

 

若い世代に限定し、女性のひきこもりを対象から外した調査は、現実を正確に反映していなかったと言わざるを得ない。

しかし、2018年の内閣府の調査は、40歳以上と家庭に留まる女性を調査対象にした。例えば、調査票で、現在の状況を「専業主婦・主夫、家事手伝い」と回答し、「最近6カ月間に家族以外の人とよく会話した・ときどき会話した」と回答しなかった者は、ひきこもりとして分類された。内閣府は、ようやく日本のひきこもりの全体像に光を当てようとしたのだ。

 

61.3万人の内訳

調査の結果を見ていくと、調査対象である満40歳から満64歳までの人口は、4,235万人。広義のひきこもり群の出現率は1.45%で、推計数は61.3万人となる。広義のひきこもり群とは、ふだんは家にいるが、自分の趣味に関する用事の時だけ外出する『準ひきこもり群』(24.8万人)と、「ふだんは家にいるが、近所のコンビニなどには出かける」「自室からは出るが、家からは出ない」「自室からほとんど出ない」 に該当する『狭義のひきこもり群』(36.5万人)を合わせたものだ。ひきこもりというと、自室からほとんど出ないイメージを持つ人もいるが、このようなひきこもりは、広義のひきこもり群の4.3%に過ぎなかった。ひきこもりとは、人間関係を失い、社会的に孤立している者を指すため、外出することが出来てもひきこもりに該当する。

 

40歳以上のひきこもりの男女比は、男性76.6%、女性23.4%。主婦や家事手伝いを含めた調査にもかかわらず、女性は少なかった。初めてひきこもり状態になった年齢は、全年齢層に大きな偏りなく分布し、ひきこもり状態になってからの期間は7年以上の者が約5割。誰もがひきこもりになる可能性があり、一度ひきこもるとなかなか抜け出せないという性質が統計にも現れていた。

立ちはだかり続ける年齢の壁

内閣府の北風幸一参事官は、今回の調査の意義について次のように述べた。

「ひきこもりの方は、39歳以下にしかいない、あるいは、国が認定したひきこもりは39歳までなんだという誤解がひょっとするとあるかもしれない。実際に、39歳までの人しか相談対象に含めない様々な機関がある中で、最初のひきこもり調査をした内閣府が40歳以上の調査をすることは意味があることではないかと」

40歳以上のひきこもりは、これまで調査されなかった。その結果、40歳以上は支援の対象とはならず、相談窓口に行っても、39歳までという年齢制限によって支援から弾かれた。社会復帰を望んでも、年齢のために諦めていった人は多いはずだ。内閣府の調査を受けて、厚生労働省、各自治体の関係機関は、40歳以上を受け入れる支援の拡大を急がなければならない。

 

しかし、40歳以上のひきこもりに対する支援は就労支援だけに限られるべきではない。就労支援にたどり着く前には、健康の回復、家族関係の調整が必要な場合もある。本人の希望とタイミングに沿った支援を個別具体的に考えていくことが求められている。

自立支援ビジネスの罠

ここ最近、自立支援業者のトラブルについての報道が続いている。これらの業者は、強引にひきこもり当事者を連れ出し、寮生活を行わせている。内閣府もトラブルを把握しており、内閣府が行うアウトリーチの研修先にこういった業者が指定されることは無いと断言した。

 

ひきこもり家族は高齢化し、追い詰められている。にもかかわらず、年齢制限によって当事者が支援を受けられなければ、ひきこもり家族は、自立支援ビジネスの食い物になってしまう。今回の調査結果を機に、全国で支援の拡充が進むことを望む。