『ひきこもり社交界の実態について(前編)』ヨナタンからの手紙 第3回 


(文 Jonathan Livingstone)

 

あいさつと前文

 

親愛なる読者諸氏へ、久しぶりにハロー。

 

諸般の事情により、前回の通信からかなり間が開いてしまったので、

改めての自己紹介をお許しいだたきたい。

 

私は、ヨナタン・リヴィングストンJonathan Livingstoneといい、

ひきこもり新聞のエージェントとして、各方面で工作活動に勤しんでいる者だ。

そして、我々の属するひきこもり界の内情について、

読者諸氏にご報告申し上げるのが、

本記事シリーズにおける私のミッションである。

 

さて以前の手紙において、我々ひきこもり新聞発刊の経緯や、

その母体となったひきこもり社交界の存在について、

概略的にではあるが、報告させていただいた。

今回は、社交界へ関心を持たれた方や、これから参加を志そうと

されている方々に向けて、より具体的な情報をお知らせしようと思う。

……ただ、実際的な目的の益するもの、という都合上、必ずしもポジティヴな

事柄だけに言及するわけには行かなかったことには留意していただきたい。

 

 

「客観的」データ

まずは比較的客観的と思われるデータの提示から始めることにしよう。

ただし、以下は、あくまで私が主な活動範囲としている関東圏、とくに東京近郊の

現況より把握している内容にすぎないことには注意してほしい。

 

まず人的規模であるが、社交界のレギュラーメンバー、すなわち、

複数のひきこもり関係の集会や居場所に定期的に参加され、

活動されている人々の数であるが、支援者的な立場の人も加えても、

全体で50~60人を超えることはないだろう。

その中でも中核的な役割を担っている人々となると、だいたい20名以下に

納まるのではないかと思われる。

このように実数自体はさほど多くないのだが、いわゆる「知り合いの知り合い」まで

含めると、全体で数百人規模のかなり広範なネットワークが形成

されているのではないかと推測される。

実際に、社交会の内部では、初対面であっても、ほとんどの場合、

既に共通の知り合いや、顔役のあの人の話題などで、

「見えない所で、すでにつながっていた」ことを互いに確認することができる。

そのありさまを称して、一部では「ムラ社会」などと揶揄されることもあるが

基本的にそうしたものと被るところがあるのは事実と思われる。

 

次いで人的構成であるが、まず20代後半~30代の男性が

全体のボリュームゾーンを占める。

また40代の方も珍しくないが、50代以降の方や20代前半以下の方となると非常に少ない。

後者については、この年代だと、ひきこもりというより不登校の範疇で捉えられがちなこと、

またキャリアが浅く、こうした交流の場への参加という発想や意欲が生じにくいことや

体力・気力とも盛んなぶん、苦しみも激しいことが多く、

外出・交流などが難しくなりがちなことなどが考えられるだろう

(これは私自身も若かりし日には経験したことである)。

前者の、50代以降の人たち少ない理由については、

いくつか推測や個別的な事情などは耳にしたものの、

ここで述べられるほどの確証は得ていない。

 

男女比に関しては、やはり男性が圧倒的に多く、私の訪れた

どの居場所でも、だいたい8:2~9:1ほどであった。

最近は各所で女子会が盛況を呈しているが、

社交界全体としては未だ「男社会」だといえ、それに伴う問題などもあることは

否めない所であろう。

 

次いでメンバーたちの状況であるが、前提条件として、

まず集まり等に定期的に参加しうるだけの体力的・精神的・経済的余裕を

もっている人たちであることが挙げられる。

とくに最後の経済的条件だが、居場所などへの交通費や、

その後の二次会などでの交際費などを考えると、決して軽くはない負担である。

それと関連してか、不安定ではあってもパートやアルバイトなどに就いており、

経済的に完全に自立とまではいかないが、

ある程度の自由に使える資金をもっている、

という人の割合がかなり多い印象を受ける。

 

総じていえば、いわゆる「ひきこもり」の一般的なイメージ、もしくは、

ひきこもりの人々の全体からすれば、比較的恵まれた状態にあると

みてよい人たちがメインといってよいだろう。

 

 

注意事項

次いで社交界へ参加される際に注意事項などを。

 

まず基本的な注意点を。

読者諸氏にとっても恐らく周知の事柄と思われるが

他のすべての社会同様、ひきこもり社交界にも、

固有の文化・慣習・マナー・思潮といったものが存在する。

こうしたものになじめなかった人たちの中には、

社交界の体質について違和感を抱いたり、

場合によっては、激しい疎外感を抱いて去っていった人も存在している。

 

ただ、そうはいっても内容的には、通常の人間集団のものと大差はない。

ひと言でいえば、

「世の中でNGとされる振る舞いは、ひきこもり社交界でもNG」という

原則でほぼ事足りる。

「ひきこもり界も、結局は「社会」で、世の中で信頼されたり、

重んじられそうな人は実際そうなっているし、そうでない人は、そうなってます。」

という、ある年長の当事者の方の話が

この辺りの事情を裏書きしていよう。

実際、私がこれまで出会ってきた社交界の大物たち

――他の当事者たちより信頼厚く、社交界において

非常に高いステータスをもつ、名うてのひきこもり者たち――

のほとんどは、広い意味での教養に富み、他の参加者の方への

思いやりに欠けるところのない、まことに尊敬すべき人々であった。

 

また、そのようであるなら「世の中で排除されがちな人は、ひきこもり社交会でも……」

などという、いささか不穏な推論も成り立つのだが、

私がこれまで見てきた範囲では、幸いにして、露骨な排除やイジメなどが

行われるケースには遭遇したことがない。

よほどの問題行為・迷惑行為などがある場合は別だが、

この点に関しては、通常の人間集団よりかはキャパシティが広いと

思われるので、比較的安心していただいて大丈夫かと思う。

 

 

 

次に女性の方に対してであるが、

――これはやや書きにくいことなのだが――

居場所など集まりの場で、ごく稀にではあるが、男性参加者により、

ハラスメントとはまではいかないまでも、女性の参加者を、

不安に陥れたりしてしまう行為が発生する場合が

あることに言及しないわけにはいかないだろう。

男性の参加者の中には、異性との交流の経験が乏しく、

適切な距離感がつかめなかったり、また将来の気質や傾向により

他の人たちの好悪の感情などがわかりにくい人なども存在するので、

そうした人たちの振る舞いによって、女性の参加者が

迷惑を被ることがあるのだ。

無論、居場所の運営者や世話役の方々などは

常に注意を払ってはいるが、現状では完全には防ぐことは難しい。

よって、これは私見となるが、ひきこもり関係の集まりへの

参加などを考えられている女性の方は、先ずは女子専用の会などに赴き、

そこにいらしている先達の方より、各地の居場所の状況などの情報を

得てからの方がよいかと思う。

……事柄の性質上、このような話は公にアナウンスされにくく、

またうかつに口外するのも行かない事情があるので、

現に発生していても、それが情報として伝わりにくい傾向があることは

覚えていただきたい。

私自身、そのようなケースを直間接にいくつか知っているが、

例え尋ねられたとしても、ここで一般的に述べたこと以上のことは

一切お答えできないと、お断りしておく。

 

 

 

次いで、いわゆるLGBT、セクシャルマイノリティの方々に。

 

この領域に関する理解度については、集まりごと、運営者ごとで

極端な隔たりがあるといっていい。

あるグループでは、理解・想定というよりも、ほとんどふつうの事柄と

なっており、セクマイの方が訪れたり、そうした話題になっても、

ほぼ誰も気に留めないが、みな慣れているので

「考慮のない言動」などはほぼ起こらないようになっている。

例えば、私自身が観察したことだが、この種のグループでは

男装・女装をした人が現れても、一瞬だけ注目するが、

すぐそのような人なのだろう、ということで、普通モードに戻り、

いわゆる「視線」やら、ちょっとした焦り・気づまりなども発生しない。

(こうしたグループでは、運営役の人自体がセクマイだったり、

メンバーのLGBT率がなぜか非常に高かったりする)

 

かと思えば、ほぼ完全に「ホモソーシャル」な、いわゆる男性社会に

特有のノリと前提で動いているような所もある。

こうした場では、考慮・想定という以前に、セクマイ系の人自体が意識されていない、

あるいは頭では考えているかもしれないが、実質的には「存在しない」ことに

なっているように見える。

 

私はと言えば、セクシャルマイノリティのひきこもりを想定しないのはけしからぬ、

と言うつもりはなく、個々の運営者のバックグラウンドや、場所のカルチャーによる

ものと、とりあえずは捉えている。ただ、一人でも多くの人が、気楽に居られる方が

よいのは確かだと思うが。

『ひきこもり社交界の実態について(後編)』につづく