【レポート】講演会「暴力的支援に陥らない支援を目指して」


イントロダクション

2017年7月29日、名古屋市で「暴力的支援に陥らない支援を目指して」と題した講演会・シンポジウムが行われた。主催はNPO法人オレンジの会(事務局)、KHJ全国ひきこもり家族会連合会、愛知教育大学川北研究室。
本イベントは、約10年前に東海地区で起きた複数の支援塾の寮生による起訴事件、および昨年3月にテレビ番組に取り上げられた支援団体を背景に、そのような暴力的な支援に頼らないひきこもり支援とはどのようなものか、また、ひきこもり当事者からの暴力にどのように対処すべきかをテーマとして行われた。名古屋で行われることになったのは、名古屋オレンジの会理事の山田孝介氏と、富山で合宿型支援を行っている牟田光生氏が出会ったことがきっかけだった。参加者は90名近くで、会場はほぼ満席であった。

シンポジウムで取り上げられた「暴力的支援団体」とは、ひきこもり問題を解決しなければ先がない、家庭崩壊する、などと言葉たくみに契約させ、問題解決の手段として研修施設やアパートなどへ連れて行き、暴力的行為によって当事者の意思に反し「支援」を行う一部の団体のことである。現在ひきこもり支援を謳う団体には法的な規制やガイドラインがないため、「ひきこもり支援は金になる」といった思惑により多数の業界から参入があいつぎ、中には宗教まがい、自己啓発セミナーまがい、あるいは明確な詐欺も入り混じっているなど、行政にも把握し切れていないのが現状。

基調講演

第一部としてジャーナリストの池上正樹氏による講演会が行われた。

講演の内容としては、
・暴力的支援団体とは何か?
・どうしてそのような団体に助けを求めざるを得ないのか?
・引きこもりの親のおかれた状況
・2016年3月に行われたひきこもりの支援団体をとりあげた番組に反対する
声明と記者会見
・実例
・支援のあるべき形、まちがった形
・すぐ利用できる窓口の紹介
といったものだった。

どうしてそのような団体に助けを求めざるを得ないのか?

ひきこもり当事者と家族の間でコミュニケーションの行き違い、家庭内暴力などにより親が疲弊してしまい、冷静な思考力を失って、最後の手段としてたどり着くことが多い。中には「ひきこもり ○○(地方名)」などと検索すると一番目に出てくる業者や、警察関係者などの肩書きをおおっぴらに謳うもの、「相談無料」といいながら相談に行くと長時間拘束されたうえ契約させられるものなど悪質なものもある。「すぐ離さなければならない」「すぐ契約しなければならない」など、契約をせかす、多額の費用を要求する、宣伝と内容が全く違うなどの点が共通する。

2016年3月に行われたひきこもりの支援団体をとりあげた番組に反対する声明と記者会見

昨年3月に放映されたTV番組で支援団体の実際の様子が取り上げられたのも記憶に新しい。この番組の中で支援団体がひきこもりの人の部屋の扉を破壊して入ったりしたことに番組として批判的な意見がなく、肯定的なものとして取り上げられたことに対して当事者が声を上げ、4月4日に声明文の発表および記者会見を行った。
(声明についてはhttp://news.livedoor.com/article/detail/11376295/を参照のこと)
池上氏はその記者会見に参席した当事者(A氏(仮名))の家庭で起こったことを紹介した。

その上で、支援のあるべき形としては、本人の意欲を回復させるようなことであり、間違った形としては、本人の意志を踏みにじる形での支援であるということが述べられた。

<すぐ利用できる窓口>
生活困窮者自立支援制度に基づく相談窓口(各都道府県、市などに設置)
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000073432.html
KHJ全国ひきこもり家族会連合会
http://www.khj-h.com/
厚生労働省ひきこもり地域支援センター
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/hikikomori/
自立支援業者の情報共有ネット(仮称)
問い合わせ先のフォームはhttp://bit.ly/johokyoyunet、メールアドレスはyamaboushinokai@gmail.com。

パネルディスカッション

司会:山田孝介(オレンジの会理事)
登壇者:
新畑敬子(名古屋市ひきこもり地域支援センター長)
伊藤正俊(KHJ全国ひきこもり家族会連合会理事長)
池上正樹(ジャーナリスト)
川北稔(愛知教育大学准教授)
牟田光生(共同生活型自立支援機構理事)

第二部のパネルディスカッションでは、会場からの、特に親の立場からの様々な質問に対して、家族会、合宿支援団体、行政、学者のそれぞれの立場から意見がかわされた。
司会者からの質問に対してパネラーが回答するという形で行われた。

合宿的支援の効果

――ひきこもり支援として、合宿的支援というのがクローズアップされたわけですが、合宿的支援とは実際どのようなものなのでしょうか。

(牟田)2005年からNPO法人教育研究所では「宇奈月自立塾」という合宿支援を富山県でやっている。合宿生活の効果としては、スポーツ合宿などにもみられるように生活をただす効果はある。しかし、生活すべてを面倒見なければならないため、本人が納得して望むのでなければ効果はない。本人の意志に反した監禁や暴力には一時的には効果があるようにみえても長期的には逆効果になる。もちろんすべてのひきこもり当事者に効果があるわけではなく、地域社会の中ででも効果を上げることは可能であると思う。

――医療との関係は。
(牟田)現在の利用者(約200名)への調査では、6割は治療(投薬治療、行動療法)が必要という状況。入所にあたっては簡単な健康診断書、医師の意見書・紹介状を書いてもらっている。また、共同生活型支援も行っているが、職員が見る中で半分くらいは発達障がいや精神障がいを持っていると思われる。

――費用は。
(牟田)自分のところでは正規では月14万5千円、訓練期間は6ヶ月。本人が合宿を卒業し、住みながら働く場合は月7万3千円、親負担なしとしている。

家庭内暴力が起こったら

――家庭内暴力への対処が迫られている。どういった対処をしているか。
(鈴木、荒畑、牟田各人より)まずは暴力が起きたら保健所に相談。すると警察の方にも情報が行く。暴力の情報が行っていれば警察も動きやすい。最初に警察に行くと被害届を出してくれと言われ、ハードルが高い。
また高齢者包括支援センターに相談したり、医療につながっていれば医者と同行するとか、警察でも生活安全課の見回りの人に頼むなどの方法がある。
大事なことは家族の身の安全を確保すること、問題を早めに相談すること、警察や医療など信頼できる人に間に入ってもらうこと。

――長い間に硬直して動きがなくなった家族関係には、どう介入するか。
(池上)こうした場合親と当事者の考えのズレが大きい場合がほとんどで、難しいが親の側が「働かなくてもいい」というように意識を変えていくこと。ありのままの一人の人間として向き合い、親も家族会や社会貢献活動に参加するなどして親の人生を楽しむこと。
(牟田)無関心・放置ではなく、今日何を買ったとか些細な情報でも得られれば支援(アウトリーチ)はやりやすくなる。

――親の側が暴力的支援に頼らなくてもすむようにするにはどうしていったらよいか。
(牟田)厚生労働省がかつてやっていた自立支援塾(合宿支援)は、環境を変えることでうまくいくタイプの当事者には効果があったと思う。行政主体なので制度もきちっとしていた。いま継続してまともにやっているのは8団体くらい。各県に一団体くらいはそういう団体があって、料金もほどほどなものがあったらいいんじゃないか。合宿支援は決して懲罰ではない。人間的成長を一緒にしていこうよというのが主目的。団体として取り組んでみたいという所があれば応援する。
(池上)家庭内暴力、暴力的支援いずれにしても暴力は違法行為であるという社会的認識、ひきこもりでも生きる権利を許容する空気がほしい。もし暴力に直面したら、写真、音声といった記録をとにかく取っておいてほしい。

(荒畑)ひきこもり支援事業の法制化やガイドラインの整備はまだまだ。就労支援事業と一時生活支援事業と組み合わせられないかということを厚労省でも模索はしているもよう。

――最後にまとめとして。
(川北)ひきこもりや家庭内暴力の問題に対して、業者に頼る前に行政・警察・医療といった正当なルートで介入していくこともできる。そういう人に頼ること、相談できる人もいるということを知らせられてよかった。また支援業者も含め、しっかりしたオーソドックスな支援のネットワークを築くことが大事。家族とはいえ、人が集まるところには暴力がありえることを考えて、そのときにどうするかを考えたり話し合っておくことが大事。

講演会を聞いて何を感じたか?

ひきこもり状態というのは、筆者も経験があるが周囲からの情報がほぼまったく途絶えた状態である。インターネットがあれば少しはましになるがそれとて万能ではない。そして親世代も孤立しやすい。そうした状況で適切な支援にできるだけ早くつながることがとても大事だと感じた。そして支援のあり方も個別的、千差万別、玉石混交、手探り状態であり、医療におけるセカンドオピニオンやレビュー制のような情報開示が重要だと感じた。と同時に、まだまだひきこもり問題自体の社会的認知度が低いことを実感した。

参加者からは、10年前と支援団体の状況がそれほど変わっていないという声や、もっと当事者から話を聞いてほしいといった要望、具体的な相談をしたいといった声が上がっていた。

最後に、KHJ名古屋オレンジの会では今後も定期的に講師を招いての講演会やシンポジウムを行う予定とのこと。また、シンポジウムに登壇した牟田氏など富山の支援者が主体となる「第13回 全国若者・ひきこもり協同実践交流会 in 富山」が本年12月に予定されている。

(ひきこもり新聞編集部 カゲヤマ)