【当事者インタビュー】フランスの田舎のひきこもり生活を語る


語り手・画 : アエル・ディヴァルベル AelDivarvel
聞き手・構成 : ぼそっと池井多

ヨーロッパのひきこもりたちは、何を考え、どのような生活を送っているのだろうか。
私たち日本の「ひきこもり新聞」と交流しているHikikomori Italiaのあるイタリアの情報は比較的に良く入ってくるようになったが、それ以外の国ではどうなのだろう。
……そんな疑問を抱いた私は、インターネット上あちこちで心当たりのサイトを訪れ、
「日本のひきこもり新聞の記者です。よろしければ、お話を聴かせてください」
というメモを残してきた。
すると、フランスのサイト「Le Forum Hikikomori」で私のメッセージを見たアエル・ディヴァルヴェルさん(31歳男性)というひきこもりが、私のインタビューに答えてくれることになった。
メールで何度もやりとりをし、諒承を得た上で、彼の語りを聞き書き風に編集・構成させていただくことにする。

オタク文化とひきこもり

フランスのひきこもりのことが知りたいって?
ボクは自分のプライバシーを語るのはあまり好きじゃないんだ。
でも、ボクは日本のオタク文化にはさんざんお世話になってきたから、
そのお返しだと思えるぶんだけ、少ししゃべってあげよう。

ボクは、フランスのどことは言わないけど、
人口1万人ぐらいの小さな田舎町に住んでる。

うちはそんなに金持ちじゃないけど、貧乏でもない。
庭には、シャレーのような形をした小さな丸太小屋があって、
そこがボクのひきこもり場所だ。夜もそこで眠る。
窓は閉め切っているから、中は昼でも真っ暗さ。

人が寄ってくるといやなので、庭の入り口には、
「通り抜け禁止。ひきこもりがいます。噛みつくかもしれません。注意!」
という立札を建てようと思ってる。

ボクはひきこもりであると同時に、トランス・ヒューマニスト(*註1)であり、コンピュータが大好きだ。とくにボーカロイド(*註2)が大好き。
コンピュータ言語、3Dモデリング、デジタル音楽などなど、コンピュータに関することなら何でもやるよ。ホームページだろうが、イラストだろうが、ぜんぶ自分で製作する。一日中コンピュータのことばかりやってる。

日本は、オタク文化で世界を征服できると思ってる。
「NHK、万歳!」だ。

へえ? キミ(ぼそっと池井多)は日本のひきこもりのくせにアニメを観ないの。
オタクでもないのか。せっかく日本に住んでいるのに、もったいないなあ。

フランスには、オタクがたくさんいるよ。
でも、オタクは必ずしもひきこもりってわけじゃない。
実際、ボクの知ってるひきこもり仲間で考えてみると、
オタクじゃないひきこもりの方が、オタク系ひきこもりより多いかなあ。

ボク自身、ひきこもりを始めたころはオタクじゃなかった。
だけど、昼夜逆転のひきこもりとなってからは、時間がたくさんあるからね。アニメをたくさん見ているうちに、だんだんオタクになったんだ。

ボクの夢は、いつか日本に、それもアキハバラへ行くことさ。
でも、アキハバラへ行くには、
まず人ごみでごった返している空港へ行かなくちゃいけないだろう。
それが憂鬱。
テレポートでアキハバラへ直行できればいいんだけど。

コンピュータのスキルならあるけれど

ひきこもり支援?
ボクにとっては、コンピュータが最高の支援さ。

ボクは、コンピュータによって助けられている。
ボクの物の考え方、世界の感じ方は、
おもにコンピュータから学んだものだ。
コンピュータがなくなったら、もうボクは死ぬしかない。

幼いころに、パパと一緒にコンピュータの使い方を勉強した。
パパがボクにコンピュータへの道を開いてくれたんだ。

高校の授業で、ボクにコンピュータを教えるはずの高校教師に、
ボクが反対に教えてやったことがある。
その教師はさぞかし陰でボクに感謝していたことだろう。

だけど、高校のころのボクは周囲が怖くて怖くて仕方がなくて、
ガチガチのファッションで身を固めて、
ドラッグをやるとかして何とか恐怖感をごまかしていた。
あのままドラッグ漬けの頭にしておけば、
いまごろボクは何も考えないで、
立派に社会人が演じられていたと思うよ。

でも、ボクはそれを選ばなかった。
ひきこもりになったからさ。

就労する気持ちは?

ボクが作ったいくつかのサイトから、わずかばかりのお金が入ってくる。
あとは社会保障から少しと、パパも少し助けてくれて、
財政的にはそれで何とか生きている。

本気になれば、もう少しお金を稼げるだろうけど、あまり関心がない。
インターネット経由で仕事を探そうと思ったこともあるけど、
でも、いつも他の人たちとうまく行かなくて。

ボクからは他の人たちのことを理解することができる。
でも、人々がボクを理解することは決してないんだ。

人間たちを相手にする社会的なスキルが、ボクにはない。
飼っている愛犬と、コンピュータを相手にするスキルなら、
山ほど持っているんだけどね。

ひきこもりになったわけ

ボクがひきこもりを始めたのは12年前、19歳のときだ。
いろいろな理由がボクをひきこもりへと追いやった。

小さいころ、ボクは聴覚に少し異常があった。
先生たちの言うことが、よく聞こえなかったんだ。
だから、小さいころからボクは自前の読唇術をやっていた。
自分から話すことは、できなかった。

耳の医者に行ったんだが、この医者がまた、
さらにボクの耳を悪くしてくれた。
両親は、他の医者を探して、17歳のときに最後の聴覚改善の治療をした。
今も、低い音はあまり聞こえない。

でも、耳がよく聞こえないことは良い事だとも思ってる。
だって、この世界で話されていることはナンセンスに満ちているからだ。
もし耳が聞こえたら、
この世界のナンセンスをたくさん聞かなくてはならないだろう。
だからよく聞こえない耳が、
ボクを安全なところへ封じ込めてくれたのだ。

それから……、
小さいころ、ある女性に虐待されたことがある。
詳しくはなかなか語れないけど、でも、
たとえボクが語ろうと思っても、
男性はそういう被害を訴えられないものだろう。

「男は強い、女は弱い。だから女は被害を訴えてよい、男はダメ」
ってことになってる。
そういう考え方、大嫌いだけどね。
そういう考え方してる人たちって、
どうせ子ども時代は恵まれてたんだろうな。

リアルな世界に棲むのは、とてつもない苦痛をともなう。
外に広がる社会は、あまりに痛ましい。
ボクはニュースさえ見られないよ。
あそこに参加するなんて、とんでもないことだ。

人々が、ふつうの社会の中に
狂ってしまうこともなく、ずっと暮らしていけるっていうことの方が
ボクには理解できないよ。

でも、そういうボクは自分がとてもみじめに感じている。
ボクは人生のなかで何も成功していないんだ。
ボクは外界への恐怖だけで生きている。
ボクは永久に、ただの壊れた少年さ。

精神医療との関わりは?

精神科へ行ったことなんか、まったくないね。
まっぴらごめんだよ。
見なくちゃいけないアニメがたくさんありすぎて、
そんな所へ行っている時間はない。

ボクの本名を知っていて、
ボクがひきこもりであることを知っているのは、
家族と昔からの友達だけだ。

友達といっても数多くはない。ボクは、友達は少しでいいんだ。

ボクが彼らに会いに行くんじゃなくて、彼らがボクに会いに来るのさ。

ほかのひきこもり仲間とも
ネット上だけじゃなくて、実際に会うこともあるよ。
ひきこもりはそれぞれ、みんな違う背景、来歴があって、みんな違う。

大好きだったママが先月亡くなってしまったんだ。

ママがいなくなったこの世界に、
自分を適応させていかなくちゃいけないんだけど、
これがまた、とてもつらいことなんだ。

パパは、近くの母屋に住んでいる。
今夜もボクのためにコンソメスープを作ってくれる。
パパも、ママが亡くなって、とてもつらい時をすごしている。
ボクは、良い両親を持ったと思っている。

自然な反応としてひきこもりになった

歴史を振り返ってみれば、多くのひきこもりがいる。

年老いた隠遁者を、人々は敬意をもって訪れ、教えを乞いたがる。

宗教的な啓示を受けてひきこもっている人には、
人々は魂の平和を充たしてもらおうと行列を作って会いに行く。

ひきこもって作品を仕上げた芸術家の作品によって、
人々は生きる力を得てきた。

でも、そういう隠遁者や
啓示を受けた人や
製作している芸術家が、
若い頃ひきこもっていた時は、
人々はバカにしていたかもしれない。

そして今の世の中では、まちがいなく社会のゴミ扱いされる。

フランスでは、ひきこもりというのは、
両親が甘やかしたために、学校に行きたくなくなった
子どもっぽい大人のことだと思われている。
そんな見当違いな御託を聞くのは、悲しいことさ。

ボクたちは、
ちょうど屋根から飛び降りようとしたら身がすくむのと同じように、
健康的で自然な反応としてひきこもりになったのだ。

ボクは、自分の子どもを欲しいとは思わないけど、
人生のパートナーとなる女性は欲しいなあ。

でも、自分でいうのも何だけど、
ボクは難しい人間だから、
いっしょに暮らすのはさぞかし大変だと思う。

もし、ボクが金持ちだったら、
ボクの金に寄ってくる女性はいるだろうけど、
そういう女性はこちらからお断りだね。
それだったらボクは、一人で生きる方を選ぶさ。

(了)

*註1:トランス・ヒューマニスト
人工知能など新しい科学技術を積極的に用いることによって人間を進化させようという思想の持ち主。

*註2:ボーカロイド
アニメのキャラクターがしゃべるような、人工的に合成された音声づくり。

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