【お試し記事】ひきこもり十五年 芥川賞作家 田中慎弥氏インタビュー『孤独になるのは“悪”ではない』


(撮影・土橋詩歩)

「生きるために逃げよ」と語った田中慎弥氏は、先月『孤独論』を上梓したばかりだ。
ひきこもり歴15年と豊富なひきこもり経験を持ち、一度も就労せずに33歳で小説家になった経歴を持つ。
孤独を真っ向から肯定する彼は、一体どんな人物なのか。ひきこもりについて何を考え思うのかを聞いた。

田中慎弥氏 インタビュー 『孤独になるのは“悪”ではない』

田中慎弥さんのひきこもり体験をお聞かせ下さい

田中:直接的なきっかけで言うと大学受験失敗です。高校は山口県の公立の工業高校にどうにかこうにか三年行って、地方の小さい大学を受験しましたが、失敗しました。絶対大学に行きたかったとか文学がやりたかった訳ではないので、ショックは受けなかったです。
ただ、それまでの学校のような、どこか朝出かける行き場所が無くなったので、家に居るようになりました。
もうちょっと、そこで考えれば良かったのかも知れないけど、悩んだり考えたりは、ほぼ一切無く、親には申し訳ないという位で、ダラダラそうなった感じです。
本を読んでいる日々がそこにあるだけで、それ以外は、特にこれがあるから自分は大丈夫と思ったことも無いし、こうだからダメだと思った事もなく、スーッとフラットな感じで過ごしてた気はします。
子供の頃から勉強も嫌いでしたし、友達も多くなかったし、その事で悩む事も無かったです。昭和の終わりですが、その時代はまだ、そういう変な奴がいる隙間が、ひょっとしたらあったのかもしれません。「田中、ずっといつもぼんやりしてるな」と。どこか居場所はあったかと思います。

ひきこもっていたのは十五年間とのことですが、どのような生活をされていたんですか?

非常に規則正しい生活をしていました。本を読むのは好きでしたが、他にやりたい事は無い。作家に絶対なってやると言うほどの決意は無いですけど、なれれば良いかなと思って、とりあえず毎日、机に向かっていた位です。期待してないので、作家になることを諦めるという選択肢も無かったですね。

小説以外何もしない

それ以外は本当に何もやってない。友達と会うとかも無かったですね。親族とも殆ど行き来がない感じですかね。
書けても書けなくても良いと作家の山田詠美さんがテレビでおっしゃってたので、とりあえず毎日机まで身体を持って行って、書くふりはしてみて終わる。ただ何があってもです。それを続けてると、何文字かは進むわけですよ。形から入るのは私の場合は大事でした。
書けない時は、自分は全然書けないぞと思いながら、じーっとしている。書けない事に関しては、それが当たり前なんです。小説を書くことは後天的な事なので、自分を作家というモードまで持って行かないといけない。いわば作りでありウソなわけですね。それが出来ない時は出来ないぞ、と思う。また次の日になったら書けるかも知れないっていう感じですかね。

自分も昔そうだったのですが、人生一発逆転するために小説家を目指している方に何かアドバイスをお願いします。

毎月給料がもらえる訳ではないので、職業としてはお勧めしません。私は労働意欲もなく、かと言ってどうにかなると思っていた訳でもなく、でも小説以外にはやりたいこともなかった。ひきこもりから脱出するために作家になろうと思ったのではなくて、昔から好きだから小説を書こうと思ってたんですね。また小説を書き続けるのは大変だし、膨大な読書量も必要なので、自分の状況をどうにかしようするためだけに作家になっても続かないとは思います。

ご家族の対応で、今から振り返ると、良かった対応はありますか?

うちは父が早くに亡くなって、母と祖父の家庭で育ちました。決して教育熱心な親では無かったですが、食事はちゃんとしなさい、夜は寝なさいという習慣だけで、それ以外はガミガミ言われなかったですね。
母は父が亡くなって以降、私を抱え、地味にコツコツ働いて生きてきた人で、でもどっかのほほんとしてる所もあったので、自分としては何となく家にいられたという事ですね。親子共々、危機感みたいな物は多分無かったです。父が過労死だったので、母は私にとにかく生きてさえいればいいと思っていたのかも知れません。

何も言わない母

母も時々は、「あーた、そろそろ何とかしなさいよ」ぐらいは言いましたし…(続く

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作家デビューまで貫き通した孤独な15年間。
追い込まれた者だけが知る最終兵器としての思考―。
孤高の芥川賞作家、窮地からの人生論。

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