「孤独論」著者 田中慎弥氏インタビュー


撮影・土橋詩歩

<今回のインタビューはウェブ版限定の記事となります。3月1日発売の3月号特集「中高年のひきこもり」では田中慎弥氏のひきこもり経験のさらなる核心に迫ったインタビューを掲載しました。ご期待下さい>

 

小説以外の言葉で

 

木村:田中慎弥さんは今回「孤独論」という本を出されますが、小説以外で本を出したのはこれが初めてですか?

田中:前にエッセイをかき集めたみたいなものはありますけど、それは本当に寄せ集めだったので一冊本を出すために小説以外でこうやってまとまった本を出すのは、初めてです。

木村:この本の中に込めた思いっていうのはありますか?
田中:普段、小説という虚構の世界を作ってますと生の言葉、小説以外の言葉でいろいろあーだこーだ言ってみたい欲求もあったので、「まあ、しゃべるだけしゃべってみようか」という感じですかね。そういう中で何が出てくるかって自分でもはっきりとは分かっていませんでした。こういう形で本を出せたことはよかったと思います。

木村:この本で感じたことは、ひきこもっていたことの意味を「孤独論」としてまとめたのかなと思ったのですが。

田中:意味というか、そこまではっきりとしたものはないです。作家になってからも一人でいる時間は長いので以前とそんなに変わっていないかもしれないんですよね。外部との接触以外は紙に向かって何か書いてる。一人になる時間は決して悪いものではないけれども孤独である部分とそうでない部分をある程度行き来した方がいいということでしょうか。

木村:体験の意味というか、物語は人を癒すものなのかなと思ったんですが。

田中:それは分からないですね。受け取り方にもよる。ハッピーな話ばかりを書いて「良かったですね」ってことだけが癒しではないと思ってるし、カタルシスっていう、悲劇を読んで愕然とすることによって何か解放されることが人間には確実にあると思う。

 

孤独であることは決して悪ではない

 

木村:この「孤独論」は孤独で苦しんでいた人の救いにはならないですか?

田中:結果的にはそうだと思います。ただこの本で言うと、働いている人の状況を見て「孤独になりたくてもなれない人が多いのではないか」という視点から書いた。孤独ではない状況の人が今の世の中に一杯いる。

じゃあ、ひきこもっている人達に対してはって言うと、そこは作用としては逆になるかもしれないです。それは逆転したところで言えば、たしかに、「孤独であることは決して悪ではない」と。だから、集団でたむろしている人に対して「一人になる時間を作ってみちゃどうですか?」って勝手なことを言っているのが今度の本なんですが、孤独な状況にある人達がこれを読んだ結果「一人でいてもいいのかもしれない」と思うのであれば、孤独であるという自覚があれば「このままでいてもいいんだ」と思ってもらっても全然かまわないです。

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