【当事者手記】就労以後に望む支援



文:五色(ひきこもり経験者)
写真:写心家 桑原 啓恭

支援者の皆さん、関わっていた若者・子どもが「就職が決まりました!」と笑顔で伝えてくれたことはありませんか?
そして、「頑張ってたけど…もちこたえられなかった」とうなだれる若者の顔を見たことはありませんか?「最近顔を合わせていないな」と思っていた矢先に、「また家から出られなくなっているらしい」との知らせを耳にしたことはありませんか?
支援される側だった人が就労を継続することの難しさを実感したことはありませんか?

自助会や支援施設を利用している私の主観ですが、自助会に出入りしていた人が同じ職場での就労を数年間継続する率は3割くらいでしょうか。一方、自助会ではうなだれる人や悩んでいる人をよく見ます。何もなかったように努めて明るく振る舞う人も多いです。

初めて就労した事業所での3年未満での離職率は高卒者は約40%、中卒者で約65%です。
ひきこもり経験後、初めて就労した事業所で3年間なんとかやり続けている人はどれくらいの割合なのでしょうか。私は3年未満での離職率は65%を越えると思っています。

私は、今の会社で働き始めてようやく半年を越えました。現在の生活や精神状態を維持するために、以下のような支援があればいいのにと思うことがよくあります。

①ステップアップの機会 
ひきこもりからの脱却がワーキングプアとしての生活のスタートになりかねないという問題があります。例えば、サポステを利用して就労した人の約70%は非正規です(平成28年度厚労省資料による)。親の高齢化や退職、親との関係悪化によって、生活資金を全て自分で賄わないといけないという切実な問題に直面しているひきこもり経験者が大勢います。私自身、親からの虐待やそれに伴う関係悪化によって、経済面での援助を一切見込めない状況です。現在の収入は訓練校に通っていた頃を下回っており、障害年金の受給停止を極度に恐れています。

②日々の精神的ケア
就労後、精神的なストレスは増えました。会社に無理を言ってフルタイムで働かせてもらっていますが、これまでのように様々な支援機関を頼る時間的余裕はなく、家と会社を往復する毎日。朝には吐き気や腹痛、発熱など、小さい頃に学校に行く前に味わったような状態が容赦なく襲ってきます。一人暮らしで家族のサポートは全くありません。幼少期から今までに温かい食卓を囲んだことは数えるほどしかありません。平日の夜にふらっと寄れる。ほっとできてその日のストレスをその日のうちに吐き出せる。人の温かさを実感できる。そんな場所があればと思います。

③楽しい経験を蓄積すること。
ひきこもり状態を卒業して思うことは、すごく宙ぶらりんな状態に置かれることです。支援機関とは疎遠になる一方、会社や地域のコミュニティとの関係も乏しいです。学校時代の友だちを頼ろうにも誰もいない。会社の同僚などに積極的にコミュニケーションを図る自信もなく、何かトラブルがあった時に一人で抱えこみがちです。

「状態」を卒業しても外面を保つのに精一杯で、内面はひきこもっていた当時のままです。働いていない時は働いていない時で劣等感がありましたが、今は今で不安と戦うことに必死です。
なんとか生活にしがみついている今になって、過去を取り戻したい欲求が非常に高くなっています。

私は、中学校1年生の時から10年間ひきこもったため、友だちや仲間と遊んだ経験が非常に乏しいです。クリスマスやお正月も一人で過ごしたことが多いです。親との関係も相まって、「いつか私はまた一人に、孤独になってしまうかもしれない」「私が死んでもどうせ誰も悲しんでくれないだろう」そんな思いに囚われることも相変わらずです。

就労して、やっと一息ついて、過去を振り返る余裕が多少生まれたのに、過去を取り戻す、思春期をやり直す手段がありません。
今からでも遅くないはずです。楽しい経験を積み重ねてれば、ストレス耐性を高められるはずです。就労し続ける前向きな動機を得られる機会が少ないです。まるで就労したらゴールのように、就労後の心理的サポートの支援体制は私の知る限りほとんど見当たりません。
それほど大それたことは望んでいないつもりです。鍋をつついたり、皆でゲームをしたり、休日にカラオケとか遊びに行ったり。何でもないようなことが憧れです。このようなことが実現しやすいように、何らかの支援体制があると非常に生きやすくなると思っています。

この3つのことは個人的な望みであると同時に、他の人も望んでいることだと信じています。支援機関卒業後の人が再び社会で孤立しないために必要な支援だと思っています。

みんながずっと笑顔でいられますように。

 


2 Comments

  1. するめやき

    五色様

    記事を興味深く読ませて頂いた元支援機関の職員です。

    > 「状態」を卒業しても外面を保つのに精一杯で、
    > 内面はひきこもっていた当時のままです。

    ここの文章には、考えさせられるところがありました。

    私がいた支援施設では、
    就労した後も支援を続けさせて頂いております。

    例えば
    1)ステップアップの機会 

    →少なくとも、非正規から正社員までのステップアップ支援を提供しておりました。

    2)日々の精神的ケア

    →日々の精神的ケアまでは、カウンセラーをつけて聞いて頂くのが良いのですが、
     月に数度卒業生が集まって、日頃の愚痴やストレスをはき出せる
     居場所を作っておりました。

    3)楽しい経験を蓄積すること。

    →上記居場所により、仲間が出来、様々な経験が出来るかと存じます。
     鍋パーティーやクリスマスパーティー等々、色々な企画をしておりました。

     中には、結婚までされた支援者もいらっしゃいます。

    何が正解かは、人それぞれになりますが、
    探せば支援してくれる機関はあります。

    何かお役に立てればと思いたち、コメントさせていただきます。

  2. 五色

    するめやきさん

    コメントありがとうございます。
    するめやきさんのコメントを読ませていただき、
    するやめきさんのおられた施設はすごく充実した支援機関なのだろうな、と思いました。
    また、するめやきさんがすごく丁寧な支援をされる方なのだろうな、という印象を受けました。

    一点お伺いしたいことがあります。
    それは「月に数度卒業生が集まる居場所」は、卒業生が自主的に始められたものなのか、施設側が人が集まるプログラムや枠組みを作ったのか、ということです。

    また、細かい場所まではお聞きできませんが、するめやきさんのおられた施設が関東、九州などどの地方にあるのか、今現在もその充実した支援を施設が続けているのか、そのあたりを差しさわりのない範囲で御返答いただけると有難いです。よろしくお願い致します。

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